桜も散り始めたある日、昼下がりの建仁寺さんの境 内を抜けて訪ねたのは、天ぷら圓堂でした。遅めのランチをいただきます。初夏を思わすような陽気で天ぷらを待つ間の ビールがさぞ美味しいだろうと、すがすがしく調えられた入口から入りカウンターへ。 ここの好きところは押しつけがましくない清潔感ある接客。そしてその”ほどの良さ”。日傘を入口でかけようとしら黒服のスタッフがすかさず 「どうぞ真中へおかけください」と言います。 この一言で心がほどけていくんだな。 そして席についてから天ぷらのコースが始まるまでの間が小気味よいのです。ダレてない。京都のお酒をゆっくりと。そしてテンポよく 配される天ぷらをいただきました。
カウンター奥に目を向けると50代ぐらいの男性が女性連れで談笑しながらシャンパンと天ぷらを食べているのが見えます。女性は白いシャツブラウスをきりっと着てボブカットの30代後半ぐらいでしょうか。きびきびとした話しぶりだから聞き耳をたてずとも、話が聞こえてきます。病院勤務らしい。仕事のことなど話しているようだ…。 男性の方はというと端の壁にゆったり もたれて、隣の女性の横顔に体を向けて天ぷらを食べる格好です。シャンパンに酔うほどに、顔がほんのり染まっていく二人を盗み見た私は、 “京都は大人の男女がよく似合う” 心の中でそんなことをつぶやいていました。 その間も天ぷら職人は「半兵衛さんのよもぎ生麩です。お好みでどうぞ。」と天つゆ、抹茶塩、普通の塩と用意された器を指して言いました。 半兵衛、他店を宣伝する際のさりげなさ。天ぷらを揚げることに精進する姿勢がお店の空気を作り、ほどの良さを生んでいます。いいですねぇ。コースもだいぶ進んだころ別の馴染みのお客さんが席を立とうとしました。 「もう帰りはるんですか…(云々)」 「今日のこしあぶらで山菜は終わりです。これからは夏野菜ですね」 少し語尾のあがる京ことば。 なんて耳に心地よいイントネーションだろう。 京ことばが、すでに「お・も・て・な・し」なのだと思います。
暖簾をくぐってから見送られるまで。こちらのリズムと調和させるような一連の流れの中に身を置いてみると、京都の洗練が、そこはかとなく伝わってくるのです。 |